私たちが暮らす占冠村は、人口は1100人そこそこですが、その総面積は571.41平方キロメートルという、東京23区とほぼ同じ大きさです。そして、その94%が森林です。つまり私たちは、広大な森林を守り、森からの恵みを受けながら暮らしているのです。

 「持続可能な社会」という言葉を最近ではよく聞くようになりました。この時間軸は短くとも50年、100年という単位になるでしょう。では、100年先にどのような村になっていれば「持続可能」といえるのでしょうか。私は「今のままであり続けること」だと考えています。哲学者の内山節さんのお話を聞いて気づいたことです。

 では、「今のままであり続ける」ためにはどうすればよいでしょうか。占冠村の森林は鵡川の源流から海まで135kmの大きな水の循環の中で守られています。私たちは流域で暮らす方々とこれを共有し、この大きな循環を守っていくには今何をすべきなのか、人まかせ、行政まかせにせず、常に自らが考え行動していく必要があります。

 たとえば原子力発電と核廃棄物の問題、たとえば遺伝子組み換えの技術、TPPのような経済開放政策も注意深く見ていく必要があります。ひとりひとりができる行動は小さなことですが、それらが集まり継続させていくことでしか成しえないことです。


 私たちが、この大きな水の循環の中で暮らしているということは、都市部での生活では得ることができない感覚であり、それを感じられるのはとても素晴らしい事です。

 人間の体の60%は水分でできていますから、私たちの体のほとんども、この水の循環の中にあります。そして森の木々はもちろん、流域で採れる野菜やお米、山菜やエゾシカ、ヒグマやキタキツネも同じ水でできている「仲間」です。

 普段の生活で森に親しみ、大きな水の循環、大きな生態系の中で生かされているという感性を磨くことは、われわれの誇りを育てることになり、その誇りが「森を守る」ことにつながっていくのです。さらには、こうして育った人材は、地域だけではなく世界でも活躍し、地球へ貢献していくことでしょう。

 環境教育として、地域の子供たち、そして修学旅行で遠くから来た学生たちに、こういった考えを伝えていくことも大切なことですが、地域の大人たちがこのことを深く理解して、暮らしの中で森とのつながりを「楽しむ」ことが何より大切です。


 森林は私たちに大きな恵みをもたらしてくれます。林業はもとより、農業そして漁業、さらにはトマムリゾートのような観光も、この水の循環で成り立っているのです。

 「森で働く」というのは林業だけのことを言っているのではありません。木質バイオマスや小水力などのエネルギー関連業、森と共にある農業やサービス業、そして地域生活を守るためにあるすべての流通経済や、医療や福祉も含めて「森で働く」と表現しています。

 観光業は海外からも多くのお客様をお招きしています。わざわざ遠く離れた土地から、わが村を訪れてくださるのは、それだけこの土地が魅力的だということです。

 ただ、私たちは経済と引き換えに、森林や食料を代表とするさまざまな地域の資源を、「消費」するべきではありません。かつてアイヌの人たちがそうして暮らしてきたように、再現可能なだけ自然の中から「いただいて」、自然に感謝しながら自然を守ることで、持続可能な地域となるのです。

 もちろん、短いスパンの経済である「現在の雇用や仕事」も日々の暮らしには重要です。豊富な地域の資源と、交通の利便性などの現在の占冠村の利点、さらに国の政策などもフルに活用しながら、循環型の地域経済と雇用を育てていくことが大切です。

 これらの理念に基づいて暮らしを組み立てていくことで、決して贅沢はできないかもしれませんが、占冠村で持続可能な社会を構築していくことが可能だと考えています。

 そのためには、占冠村の暮らすみなさんが、仲良く、知恵を出し合って、共有できる「コミュニティ」こそが大切です。「コミュニティ」は、経済、教育、福祉、観光などすべての分野にわたって威力を発揮する、地域にとって「血液」のような大切なものです。
   
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